腸年齢

伝統的な日本型食事で腸内年齢を若返らせよう

かつて、穀物と野菜や魚、海藻を中心にした日木食は、欧米諸国からみると模範的な食事といわれていた。低脂肪で、低たんぱく質、高食物繊維だったのだ。

長寿村といわれる山梨県の撰原村を調べたところ、長寿の人たちは普通の農村部の三倍から4倍強も食物繊維をとっていた。その長寿者一五名(平均年齢八二歳)と、東京に住んでいる老人(平均年齢7八歳)の腸内細菌を調べたところ、桐原村の老人には善玉菌であるビフィズス菌の菌数が多く、加齢とともに多くなる悪玉菌のウェルシュ菌をもった老人は、健康な成人と同じ程度の五三%であった。

また、テレビの番組で、沖縄と関東地方の若い女性のウンチを調べたことがある。沖縄の女性4人のウンチの水分含量は64~か85%。ビフィズス菌の総数に対ずる占有率は28~43%。平均は33.3%だった。一方、関東在住の女性のビフィズス菌の占有率は低く、いちばん高い人で7.1%。もっとも低い人は0・001%以下で、腸内にビフィズス菌がほとんどいない状態だった。

また、悪玉菌のクロストリジウムの占有率は、沖縄の女性たちは1%から2%台がほとんどだったのに対し、関東地方はもっとも少なくて7.1%、多い人だと20.1%もあった。高齢者でも、これだけクロストリジウムが高い人はめったにいない。腸に関して、沖縄の女性たちは関東の女性たちより圧倒的に若かった’。

沖縄の女性たちの腸年齢は若く、腸はピチピチ状態だった。彼女たちは日常、脂肪を抜いた肉、生野菜の多い沖縄の家庭料理を食べている。発酵食品はあまり多くとっていないが、豆腐やゴーヤチャンプルーをたくさん食べている。また日常よく飲むというパパイヤジュースには、食物繊維やオリゴ糖が多く含まれている。こうした食事が腸内環境を改善していると思われる。一方、関東の人たちは、あまりいい腸内環境ではないことがわかる。


毎日大量の肉を食ベたら大腸がんの発生率が高くなる

今まで、大腸がんの発症率の高い地域と低い地域では、そこに住む人々の腸内環境にはっきりとした差がないとされてきた。ところが、イギリスのヒルらは、大腸がんの発症率の高い地域の人々の腸内には、悪玉菌のバクテロイデスの菌数加多く、低い地域の人々には、善玉菌の腸球菌が多く検出されると報告した。

また、アメリカのファインゴールドらは一九八三年に、食事による変化がふん便中の細菌叢にどの上うな影響を与えるかの結果を報告している。伝統的な日木食を食べている日系アメリカ人、標準的な欧米食をとっている人たちの腸内細菌叢を調べたものだ。それによると、日本食を ことっている人から、欧米食をとっている人上りも、腸球菌と嫌気性菌が多く検出されたとしている。ただし、この調査ではビフィズス菌に有意な差はなかった。

さらに、アメリカのムーアらは、伝統的な日本食をとった場合は、バクテロイデス、ユーパクテリウム、善玉菌の代表であるビフィズス菌などが優勢になると報告している。こうした報告や統計的な報告により、食事や生活習慣が、がんと密接に関係していることは、常識となっている。 


腸年齢の老化の原因は欧米型の食事にある

では何か、腸年齢を老化させ、病気の質を変えたのだろうか?

原因は、なんといっても食生活の変化だ。農林水産省の調査によると、1960年代以降、食上活でもっとも変化したのは、肉類の消費量。この40年間に、10倍に増えたという。1960年の国民一人あたりの肉消費量が三キログラムとすると、1995年には、30キログラムになった。穀物や野菜、魚中心の伝統的な食事から、肉食へと変わった食上活の欧米化か、病気の質を変えた原因だ。肉の多食により、腸内細菌の構成も大きく変化したと考えられる。

大腸がんの死亡率が高い国としてアメリカが知られているが、しかしアメリカにおいても、昔から大腸がんによる死亡率が高かったわけではない。1920年代を境に、それまで多かった胃がんに大腸がんがとってかおり、またたく間に大腸がんが増えていった。アメリカの1920年代というと、各家庭の冷蔵庫の普及率が高まった時代だ。肉の保存がきく上うになって、消費量が急激にのびたわけだ。

肉を多食ずることが大腸がんに影響している事例が、アメリカに移住した日本人にみられる。アメリカに移住した日本人の一世には、胃がんが多かった。しかし2世、3世になると、大腸がンによる死亡率はアメリカ白人並みになっている。頑固に日本食を守り、しょっぱいものを食べ る一世と、高脂肪・高たんぱく質のアメリカ人と同じ食生活を送る2世、三世。食上活の変化が、がんの種類を変えてきたことがわかる。

さらに、日本で農村部の伝統的な日本食を食べている日本人と都会の日本人、カナダで高脂肪食をとっている都市部のカナダ人とを調べると、かなりの差が出ている。農村と都市の日本人にくらべて、カナダ人の場合はビフィズス菌が少ない。この結果をみても、食事内容に上って腸内の細菌が違ってくることがわかる。

高脂肪・高たんぱく質の食生活は、若者たちが好んで食べるファーストフードに典型的にあらわれている。ハンバーガーとポテトフライを毎日食べてもあきないという若者もいるが、これを食べたときの脂肪の摂取量がどのくらいになるか、ご存知だろうか? 「エネルギーも脂肪も高そうだけど……」ぐらいには思うかもしれない。が、実は、これだけで脂肪は40グラム。おとな一人に適当な一日の脂肪摂取量の五〇プラムを八割も満たしてしまうのだ。もちろん、これ以外にも食事はとるのだから、脂肪が超過ずることは間違いない。 


増える便秘の危険性

植物性便秘薬、腸内洗浄、食物繊維入りサプリメント……。

便秘解消のための商品は、その種類、数ともに増加の一途をたどっている。この不況の中でも便秘薬業界の売り上げは好調だ。その好調の理由は、やはり若い女性のニーズだ。調査に上ると、便秘で悩んでいる女性は48%、2人に一人の割合だ。私も、雑誌の便秘特集で、その原因と解決法について、ウンチの専門家、いや、腸内細菌の専門家として何度か登場させていただいているくらい、便秘ブームとさえいえる昨今だ。

さまざまな便秘の種類をご存知だろうか。

朝、起きられずトイレに行く時間がない。そのため、平日は出さずに、週末になると下剤を飲んで一週間まとめ出しをする「週末トイレ症候群」。ストレスのため便秘になり、一日に浣腸を五~六回使わないと出ないほどの「ストレス性便秘」。ダイエットのしすぎ、パンやお菓子ばかりでウンチのもとになるものを食べず、出すものがないという便秘。子どもたちのあいだでも、4~5日に一度、しかも遺糞症といわれるウンチをちびちび漏らず便秘も多くなってきている。

二週間ウンチが出なくても便意をもよおさない前述の20歳の女性の話以外にも、便意を感じない若い女性たちが本当に多い現実に、私は驚愕ずる。

こうした便秘は、腸年齢の老化の端的な症状だ。

便秘になると、吹き出物が出やずく、顔色も黒ずんでつやがない。便がとどこおると、悪玉の腸内細菌が有害物質を産上し、それが大腸壁から吸収されて全身の血中にめぐる。その結果、皮膚に常在する菌の活性を高めてしまう。肌のトラブルどころか、大腸内の悪玉細菌が優勢、善玉細菌が劣勢の状態になり、大腸がんや上活習慣病の引き金になることはお話ししたとおりだ。

便秘になると大腸内にガスがたまり、大腸内の環境も変わる。有害物質ができて、体に悪い影響を与える。腸内環境が変わることで、さらに便秘がひどくなるという悪循環に陥る。

とりわけ女性の場合、中学・高校上のころから朝食抜きで学校に行き、服装もミニスカートで体を冷やず。当然、便意をもよおさなくなる。また、「トイレは臭いところだから恥ずかしくて行けない」「行くと、からかわれる」という社会的な側面も、排便を我慢させる一因となってい。 


最近、急増している大腸の病気

腸年齢の老化と病気の関係は、どうなっているのだろう。

不規則な食事のサラリーマンなら、まず気にするのは、大腸ガンかもしれない。

健康診断では必ず、便潜血検査かおる。腸内の出血は、がんか炎症である可能性を意味する。出血があれば、さらに大腸スコープなどで検査する。最近は検査の感度も上くなった。けれども、便潜血反応は、大腸がんになった人を調べているのであって、なる前の人のチェックではない。しかも、今のがんは、昔のがんとは違う。

かつては、ぱっと花が咲いたようながんが多かったが、今は腸壁に食い込んでなかなか発見しづらい小さながんが多い。そうしたがんは、潜血反応では見つけにくい。

ここに、臓器別のがんの死亡者数のデータがある。胃がんが減って、1980年代半ばからは大腸がんが増えている。とくに、働きざかりの男性に急激に大腸がんが増えてきているという。


若い人の腸年齢が老化している

年齢を重ねると、人の体は老化する。腸もまた、加齢とともに老化する。腸の動きは老化するとにぶくなり、腹圧・腹筋か弱くなる。加齢に伴う生理的な老化が腸管運動にも大きな影響を与え、腸内細菌の状態を変える。そうすると、大腸内で有害物質である腐敗物質が出てくる。

腸が老化してくると、若いときにくらべて、ウンチのにおいがきつく、出る量も少なくなる。いわゆる「老人性細便」といわれる細かい便になる。排便後、いつも残存感があって、すっきりしない。

一般に、腸内細菌の九割はクロストリジウムなどの悪玉菌だ。残りがビフィズス菌や乳酸菌など、健康によい働きをする善玉菌。この環境が加齢に伴って変化する。善玉菌が急激に減少し、悪玉の腐敗菌が増えてくるのだ。こうした腸管運動の老化、腸内細菌の状態の変化を、私たちは「腸年齢の老化」といっている。

老化すれば誰でも、さまざまな生理機能が低下する。腸内腐敗によってつくられた有害物質が 腸管から吸収され、老化がさらに促進される。かつて、汲み取り式トイレの時代には、トイレの臭さでその家に老人がいるかどうかがわかったものだ。家族の年齢が高ければ高いほど、その家のトイレは臭かった。言葉は悪いが、「くそジジイ、くそパパア」というのは、ウンチの臭さからきた表現だったかもしれないと私は考えている。

けれど、最近の老人のウンチは良くない。それどころか、老人たちのパワーは全開で上き上さしている。 


トイレのあとの臭いが 「オヤジ臭い」のウンチ

毎日、コンピュータの前に座って運動不足、ストレスがたまってタバコを吸う。食事といえば、高エネルギーのスタミナ食。食事は簡単に、短時間、しかも食べる時間は一定していない……。自分のことだろうかと思われるサラリーマンも多いだろう。では、いわゆる「オヤジ世代のウンチ」はどうだろうか?

ある製薬メーカーの調査によると、家族の中でもっともトイレのあとが臭いのは、「中高年の男性」との結果が出ている。オヤジ世代の80%の男性が、家族から「トイレのあとが臭い」といわれると答えている。「オヤジは臭い」というけれど、本当に臭かったのだ。

私は一年前まで、肉食が中心だった。現在は、食物繊維の多い食事に変えたが、それまでは家族からトイレのあとは臭いといわれ、私のあとには誰も入らなかったものだ。酒を飲んで、肉を食べて帰ってきたあとなど、しかもにんにくでも入っていようものなら、自分でも我慢しきれない。たしかに臭かっか。

ウンチのにおいのもとは、大腸内のクロストリジウムやウェルシュ菌など、悪玉菌と呼ばれる細菌だ。こうした細菌は、大腸内に滞留する食物などに作用して、アンモニアやインドール、スカトールといった有害物質を発生させる。これがにおいの原因になるのだ。

おなら臭さも、またしかり。おならは、大腸内の細菌が食物を分解するときに発生するガスが外部に出たもの。成分の九割は、窒素や水素ガス、メタンガス、二酸化炭素など、無臭性のものだが、残り一割が便のにおいと同じ臭気ガスだ。おならの臭さと便の臭さは同じもの。臭くなるのは、大腸内で悪玉菌が優勢になり、有害物質をつくり出しているからだ。


昨今の若い女性のウンチの現状

 「便の研究をしている辨野先生に、ウンチを調べてもらいたい」‐‐最近の健康ブームにのって、私の研究室にもテレビ局の取材が頻繁に訪れるようになった。のっけから、臭い話で恐縮だが、まず、そこで「鼻にした」ウンチの話を聞いていただきたい。

それは、クール宅配便で「食品」として送られてきた。厳重に包装された容器を開けたとたん、どう形容していいかわからないほどの強烈なにおい。研究室のみんなはのけぞり、逃げ出したほどだ。石のようにコロコロで、数層に重なり、パラパラとはがれて取れる。しかも、そのウンチのかたいこと。大の男がどう力を入れてもナイフで切れない。今まで、日本でいちばんウンチを見てきた豪語できる私でさえ、初めて目にするウンチだった。

さらに、その中身に驚いた。ウンチの水分含量は61%。通常、健康な人間の便は半練り状で、水分含量は80%前後。水分が70%になると、重症の便秘だといわれる。それが61%とは……。便はたぶん、大腸壁にこびつついていたはずだ。大腸内の細菌を調べると、善玉菌といわれるビフィズス菌が0.01%、悪玉菌のクロストリジウムが16・2%だった。通常これらの菌は、それぞれ10~15%、5~6%であるといわれているから、これは善玉菌がほとんどなく、悪玉菌が超優勢の驚異的な数字といってもいい。

ウンチのpHも調べた。通常、人間のウンチのpHは、6.2から6.8で弱酸性だ。ところが、そのウンチのpHは8.3のアルカリ性。私は目を疑った。何度、検査しなおしてもpHは同じだった。これでは肉食動物の便と同じじやないか。肉食動物の便はアルカリ性なのだ。そこでためしに、わが家の飼い大の便のpHを調べてみたら6・5たった。こっちの大より、肉食だ!」私は30年問、腸内細菌を研究してきたが、pH8.3のウンチなんて初めてだった。

世の中にはとんでもないウンチがあるものだ。何のウンチなのか? 人間か、動物か? ウンチの生か想像できない。

その驚異的なウンチの主を知ったとき、私は言葉を失った。なんとそれは、20歳の女性だったのだ。のちに放映されたテレビで拝見したその人は、スラリとしたうら若さ女性。ウンチからは、想像もできない容姿の持ち主だった。「あの人から、あのウンチ……り‥」顔かたちを見たあとでも、私の頭からはあのウンチがこびりついて離れない。

その20歳の女性はひとり暮らしの大学生。ふだんから便秘を繰り返し、体調はよくない。肌によつぶつができるという。前述のウンチも2週間も便秘が続いたあと、下剤を使ってやっと出しかものだそうだ。「便秘が2週間!」と聞くと、私などはそれだけで気が遠くなる。けれど、彼女にとってそれは日常茶飯事。

「えっ、ウンチつて、毎日出るんですか?」
 


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